音の絵葉書|民謡・伝承歌とは?世界をつなぐ歌の魅力

民謡・伝承歌とは何か

世界には、地域の暮らしや祭り、仕事、祈り、子守りなどと結びつき、人から人へ受け継がれてきた歌があります。一般に「民謡」や「伝承歌」と呼ばれる音楽です。

中には作曲者・作詞者が分からない歌もありますが、すべてが作者不詳とは限りません。特定の作者がいる歌が地域に根づいた例や、古い旋律に後の時代の歌詞・伴奏・編曲が加わった例もあります。

声から声へ、変わりながら続く

楽譜や録音が広まる以前、歌は主に人の記憶と声によって伝えられました。そのため、同じ名前の歌でも地域や歌い手によって旋律、節回し、言葉が異なることがあります。

ただし、すべての民謡に「完成形がない」と言い切ることはできません。特定の楽譜や録音を基準に演奏される場合もあります。大切なのは、一つの名称の下に複数の伝承や版があり得ると知ることです。

「ロンドンデリーの歌」と「ダニー・ボーイ」

広く知られる旋律「ロンドンデリーの歌(Londonderry Air)」には、さまざまな歌詞や編曲があります。「ダニー・ボーイ」は、その旋律にフレデリック・E・ウェザリーの英語詞を組み合わせた歌です。

つまり、伝承旋律と「ダニー・ボーイ」の歌詞は同じものではありません。さらに、演奏で使われる伴奏や編曲、出版された楽譜、録音・動画にも、それぞれ別の権利が関係することがあります。

世界の歌を聴くということ

民謡や伝承歌には、その土地の言葉、生活のリズム、共同体の歴史が映ります。一方で、遠い地域の歌を一つの特徴だけでまとめると、文化の多様さを見落とすことがあります。

知らない歌に出会ったときは、曲名だけでなく、どの地域で、誰が、どのような場面で歌ってきたのかを確かめる。そうすることで、旋律はより豊かな背景をもって聞こえてきます。

もう一つの伝承歌の例として、ここでは「スカボロー・フェア」の演奏をご紹介します。編曲は三野友子さんです。

「スカボロー・フェア」に残る物語

「スカボロー・フェア」は、イングランドで歌い継がれてきた伝承歌です。英国の民謡資料を収蔵するヴォーン・ウィリアムズ記念図書館では、Roud番号12の歌として記録され、1921年刊行のセシル・シャープによる資料にも歌詞と旋律が収められています。

歌の中に現れるのは、縫い目のないシャツを作ることや、海と浜辺の間に土地を見つけることなど、現実には難しい課題です。言葉をそのまま追うだけでなく、なぜこのような課題が歌われるのかを想像すると、物語の奥行きが見えてきます。

同じ歌でも、歌い手や時代によって歌詞や旋律が少しずつ異なります。一つの決まった姿だけではなく、いくつもの版が残されているところにも、伝承歌ならではの魅力があります。

編曲から聴こえてくる新しい表情

伝承歌は、過去の形をそのまま保存するだけでなく、新しい歌い手や演奏家に出会うたび、別の響きをまといます。旋律をどの楽器で奏でるか、どの音を支えに置くか、どのような間をつくるかによって、同じ歌から異なる風景が立ち上がります。

ここでご紹介した「スカボロー・フェア」は、三野友子さんの編曲によるライアー演奏です。古くから受け継がれてきた旋律と、現代の編曲、そして演奏する人の呼吸が重なることで、伝承歌が今の時間の中にもう一度現れます。

曲の由来を知ったあとで聴き直すと、最初に聴いたときとは違う言葉や響きが心に残るかもしれません。

著作権についての大切な注意

「伝承曲」「民謡」「作曲者不詳」と書かれているだけで、掲載・編曲・録音・配信に自由に使えるとは限りません。旋律、歌詞、訳詞、編曲、楽譜、演奏、録音、動画を分け、利用する国と用途に応じて確認します。市販音源を使う場合は、著作権とは別に音源製作者や実演家の権利も関係します。

余韻

歌は、声から声へ渡るたびに、新しい時間をまといます。その土地で生まれた背景を大切にしながら、遠くの歌へ耳を澄ませる。その慎重さもまた、音楽を受け継ぐ一つの姿ではないでしょうか。

お読みいただき、ありがとうございました。

Words by Roy

参照資料

ヴォーン・ウィリアムズ記念図書館「Scarborough Fair」
English Folk Dance and Song Society「An Acre of Land」
文化庁「著作権を学ぶ(教材・講習会)」
JASRAC「インターネット上での音楽利用」
米国議会図書館「Leonard B. Smith Papers」