音の絵葉書|井上芳雄とジャズ──ミュージカルスターのもうひとつの響き

土曜日放送の『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)は「3100回記念コンサート 第1夜」。
番組表によれば、井上芳雄さんは「フレンド・ライク・ミー」を披露予定となっている。

ミュージカル界の中心に立つ存在として知られる井上芳雄さん。
けれど彼には、もうひとつの顔がある。

2014年、Billboard Live TOKYOでジャズをテーマにした公演を行い、
スタンダード「Come Fly With Me」に真正面から向き合った夜があった。

テレビでその歌声に触れたあと、
少しだけ視線を変えてみる。

今日は、土曜日のテーマ「ジャズ」として、
井上芳雄とスタンダードの関係を辿ってみたい。


ミュージカル界の中心にいる人

井上芳雄さんは、舞台の第一線で長く活躍してきたミュージカル俳優。
歌の強さだけでなく、言葉を立ち上げる力が大きい。台詞の延長に歌がある、と言いたくなるタイプ。

ミュージカルの歌は“役”を背負う。
ジャズの歌もまた、曲の中の感情や空気を背負う。
作法は違っても、共通点は多い。だから井上さんがジャズへ向かったことは、意外というより自然にも感じられる。


ジャズへ踏み込んだ夜

井上さんは2014年7月、Billboard Live TOKYOでの公演を収録した作品『Yoshio Inoue at Billboard Live TOKYO ~Come Fly With Me~』をリリースしている(発売は2015年)。
ここで鍵になるのが、タイトルにもなっている 「Come Fly With Me」

この曲は、スタンダードの中でもとびきり軽やかで、洒脱。
歌い手の“余裕”がそのまま出る。勢いだけでは成立しない。
テンポの揺れ、語尾の置き方、言葉の角の取れ方。そういう細部で勝負が決まる曲。

井上さんがこの曲を掲げたのは、「ミュージカルの声」から一歩外へ出て、ヴォーカリストとして立つ意思表示にも見える。

なお、Billboard JAPANのインタビューでは、当時の想いや公演に向き合う姿勢について語られている。
舞台とは異なる空間で歌うことへの緊張や、新しい表現への挑戦について触れられており、今回のテレビ出演をきっかけに読み返してみるのも興味深い。

▶︎ Billboard JAPAN 井上芳雄インタビュー


名曲「Come Fly With Me」を、どう聴くか

「Come Fly With Me」は、誘いの歌。
押しつけではなく、“行ってみない?”という軽さ。
その軽さを出すには、声を太くしすぎないことが大事になる。

ミュージカルの歌は、届かせるために前へ出る。
一方スタンダードは、前へ出るより“近づく”感覚が似合う。

井上さんのスタンダードは、この“近づく”方向へ舵を切る瞬間がある。
声の輪郭を鋭くしすぎず、言葉の角を丸め、少しだけ息を混ぜる。
舞台で培った技術を、別の礼儀で使い直している感じ。

同じ「歌う」でも、別の筋肉を使っている。
そこが聴きどころ。


エピソード:スタンダードは「背伸び」から始まる

ジャズやスタンダードって、最初は少し背伸びに聞こえることがある。
“大人の音楽”の棚に並んでいるから。

でも、背伸びは悪くない。
背伸びをして初めて触れられる空気がある。

Billboard Liveのような空間は、まさにそれ。
客席の距離が近くて、拍手も近い。歌が「作品」より「その場の会話」になる。
そういう場所でスタンダードを歌うのは、歌い手にとって逃げ場がない分、面白い。

井上さんがそこに立ったこと自体が、ひとつのメッセージになっている。


私生活について

井上芳雄さんは歌手・女優の知念里奈さんと結婚している(婚姻届提出は2016年と報道)。
二人はミュージカルでの共演を通じて知り合い、その後関係を深めたと報じられている。

舞台に立つ者同士。
長い稽古期間。
同じ作品を作るために費やす濃密な時間。

共演という形で始まった縁は、
互いの仕事を理解し合う関係へと育っていった。

知念里奈には前夫との間に長男がおり、
2018年には二人の間に男児が誕生している。

家庭の話題について多くを語るタイプではないが、
仕事と家庭の両立を続けている姿は、メディアでも折に触れて伝えられてきた。

華やかな舞台の光。家庭という灯り。
その両方を抱えながら歌う声は、
以前よりも少しだけ柔らかくなったようにも感じられる。


広がり:テレビで知って、深夜に聴き直す

今回の『MUSIC FAIR』では、井上さんは「フレンド・ライク・ミー」を披露予定。
まずはそこで“舞台の強さ”を受け取って、次に夜のどこかで「Come Fly With Me」を聴き直す。

同じ人の声なのに、距離感が変わる。
その差が、意外と楽しい。


井上芳雄さんの最新情報や公演予定については、公式サイトでも確認できる。
活動の幅広さを知るうえでも、一度目を通してみる価値がある。

▶︎ 井上芳雄 公式サイト


余韻

ミュージカルは光の中で鳴る歌。
スタンダードは影の中で光る歌。

井上芳雄さんは、その両方に触れてきた。
土曜日は、少しだけ“影のほうの歌”も思い出してみたい。

お読みいただき、ありがとうございました。
Words by Roy

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